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冷たいスイカ、冷たい麦茶、セミの声。時折かさなる風鈴の音。


夕方の縁側に流れる、ゆったりとした時間。

日本らしい夏の日常。

最近になって、ようやくその良さが分かってきたような気がします。でも、実際はもう何年もそんな時間を過ごしていないような。そもそも都内の賃貸では、そんな楽しみかたができるほど、ゆとりのある建物が多くないのです。

梅雨あけのすこし前に「中野昭和の館」で出会ったのは、東京では久々に目にする、とても日本らしい夏の日常でした。

舞台となるのは、庭と縁側のある大きな和風の家。戦争直後に下宿として建てられ、長い時間を歩んできた建物です。

中野の閑静な住宅街という立地、年季の入った味のある建具、随所に残るかつての下宿時代の名残に、まるで昭和にタイムスリップしたかのような感覚を覚えます。

きっと、はやく流れすぎていた時間をゆっくりと元のペースに戻してくれる、静かな暮らしが待っているはず。


中野駅から、線路沿いをまっすぐ北へ。通りから一本入ると、そこは一軒家の建ち並ぶ閑静な住宅地。

年季の入った家が建ちならぶ一帯の中でも、広い間口と墨色の外壁が目をひく建物が「中野昭和の館」。

「館」という名前から、とても大きなお屋敷のような家を想像していましたが、正面から見ると周囲の家と比べても少し大きい程度。とは言え、敷地にはたっぷりと奥行きがあります。

日当たりのよい玄関は、すりガラスの入った引き戸です。渋い!

近寄ってみるとナンバー式の鍵が取り付けられていて、近代的な一面も。

味のある引き戸にメタリックなデザインの組み合わせに多少のギャップはあるものの、日常生活を送る上で、セキュリティがしっかりしているのは良いことだと思います。

引き戸をスライドさせると、ガラガラ…という音とともに、少しだけ引っ掛かりのある手応えが。

建物に一歩足を踏み入れると、広めの土間が広がります。

使い込まれた木材がたくさん使われた空間。木の温かみというより、貫禄や威厳のようなものを感じます。

窓の先がぼんやりとしか見えないほどのすりガラスでも、充分過ぎるほどの明るさ。

一日の始まりにピッタリの、爽やかな気持ちで家を出発できそうです。

渋い艶のある、なめらかな板間の廊下。足の裏に感じる心地よさ。

突き当たりのドアをそっと開けて、リビングを見ていきましょう。


障子窓に囲まれた、広々とした和室がメインのリビング。

リビングというより「居間」と言ったほうがしっくりくるでしょうか。

和室特有の凛とした空間も、雪見障子からかいま見える庭園が効いてか、流れているのはいたってリラックスした空気。すこし持て余しそうなほど広い空間も、なんだか懐かしさを感じさせます。

もともとは、8畳と6畳の2間続き。

あいだの襖(ふすま)が取り払われた、開放感のある大きな部屋。都内で、しかも中野で、この広さはなかなか贅沢。

以前は1階をオーナーさんの自宅、2階を下宿として使っていたそうです。

かつてのまま、残されたアイテムもちらほら。

本棚の書籍も、そのひとつ。

小説にエッセイ、1300種以上のレシピを掲載したパスタの大辞典など、独特の広がりを持ったセレクションは、オーナーさんのただ者でない気配を漂わせます。最近では入居者さんも少しずつお気に入りの本を並べはじめて、さらに賑やかなラインナップになっているとか。

インテリアとしても雰囲気のよいオーディオ機器も、オーナーさんの私物。

年代物のレコードプレイヤーは修理が必要な状態とのことでしたが、要望があれば使えるようにしたいとのこと。

小さなノイズが心地よく聞こえるレコード特有の味わいと、年季の入った和室の居心地の良さは、どこか相通じる感覚。和室にレコードとは、粋なスタイルだと思います。

本を読んだり映画を観たりと、入居者さんたちは思い思いの時間を過ごしているそう。

足を投げ出したり、寝転んだりできる空間では、リラックスムードも一層高まりそう。お互いに、打ち解けやすくなるかもしれませんね。

夜遅く、グラスをお供に静かな時間を過ごすのにピッタリ。

夜ふかしも、ときには良いものです。


障子を開けると、期待通りに縁側が現れます。

床の風合い、片上がりの天井、風で音を立てる窓…

グッときます。

お約束の囲碁セットも、実際に置いてみればやっぱり似合います。

実はひとりでも遊ぶことができる、囲碁。お手並み拝見といきましょうか。

珍しいのは、端に土間が設けられていること。

もちろん、縁側のどこからでも外には出られるのですが、せっかくなので土間から下りてみましょう。


大きな庭石にすっかり味の出た塀、瓦で埋め固められた足元と、とても趣のある庭。

「1年中、なにかの花が咲いているように」と、数種類の花も植えられています。

これからの季節は、窓辺に蚊取り線香を焚いて、窓を開けて涼みたいものです。


室内に戻って、隣同士のキッチンとダイニングを見ていきます。

先ほどの和テイストとは雰囲気が変わり、ちょっぴりカントリーなキッチン。

グリーンのタイルがキュート。

コンロやシンクは、今回の改装で一新。建物自体は築60年を超えているそうですが、キッチンやバス・トイレといった水まわりは、しっかりモダンに。

戸棚を開けてみると、なにやら見慣れないものが。

鉄瓶やせいろも通常のシェアハウスの備品としては珍しいですが、何よりも気になるのは細長い「ところてん突き」。

調べてみたところ、ところてんは意外と家でも作れるようです。とてもヘルシーでダイエットにも良いと聞きますし、意外と人気の調理器具になるかも。

ちなみに、ところてんの原料・テングサを煮るのには、深めの鍋が良いそうですよ。


大きめのダイニングテーブルを備えたダイニング。

ここでキッチンで作った料理を食べて、食後は畳の居間で過ごすのかな?と思いきや、意外にも今のところ、夜はダイニングの滞在時間が長いそう。

食事中に話が盛り上がってそのまま…という感じでしょうか。広いスペースではありませんが、確かに心地の良い空間です。

戸棚に入った食器は、種類がとても豊富。

料理と食器がうまくマッチすると、より美味しく感じるはず。盛りつけ上手になりそうですね。

ダイニングの壁には、不思議な扉がひとつ。

そっと開けると、勝手口側の廊下がのぞけます。

下宿時代の名残でしょうか。

この窓から「おかえり!」なんて言われたら、なんだかほっこりしてしまいそう。


勝手口の方は、こんな感じです。敷地の裏側にあたり、駅に近い出入口です。

主な玄関は正面側ですが、こちらも日常使いOKとのこと。玄関同様に、ナンバー式のオートロック錠が取り付けられています。

ただし、靴箱は2階の入居者さん専用とのこと。間違いのないように。


続いて、水まわり設備を順番に見ていきます。

洗濯機は廊下に設置されています。

部屋の数を考えると、うまくリズムをつかんで、譲りあいながら使っていきたいところ。

洗濯機の隣がバスルーム。ドアの取っ手と鍵は、海外のホテルにありそうなデザインで素敵です。

「VACANT」の文字を確認して、取っ手をカチャリ。

レトロなタイルがかわいいバスルームには、なんと浴槽がふたつ。

おそらく、片方は水風呂として使っていたのでしょう。現在は、金属製のほうを使っているそうです。


ほかに、シャワールームもあります。

しっかりボディチェックもできる、全身鏡付き。毎日鏡を見ることは、身体を引き締めるのにも良いと聞きますしね。


緑のタイルがアクセントのトイレ。

こちらも改装で新しくなり、ウォシュレットも完備しています。


では、階段を上って2階へ。

階段は勝手口側と玄関側の2箇所にあり、回遊できるようになっています。

廊下の両側に部屋が並んだ、昔ながらの下宿の間取り。

部屋のドアの上には下宿時代に使われていたメーターも残されていて、つい当時の生活風景に思いを馳せてしまいます。

どこかの部屋に集まったりすることも、あったのでしょうか。

今の生活に通じる部分も、きっとありそうです。


廊下の端は、洗面スペース。

朝、寝ぼけまなこで顔を洗いに来ても、窓から差し込む太陽の光ですっきりと目覚められそう。

学校のようなレトロさもある木の窓枠とアルミシンクの組み合わせは、個人的にはとてもお気に入りです。

窓際に小さな鉢植えや歯ブラシの入ったコップのような、いつのまにか滲み出してくる生活感も、きっと絵になる不思議な場所です。

水の落ちたシンクから響く音も、なんだか良いBGMに聞こえます。


では、おまちかねの各部屋を見ていきます。

部屋の入口は、引き戸と、開き戸の2種類があります。

201号室は開き戸のタイプ。

すべすべした手触りのドアノブを引いて、なかへ。

モデルルームとして控えめにセッティングされた5.3畳の和室。

2階はほとんどの部屋が同じ間取りです。

備品はエアコンのみ、家具類などは自分で用意することになります。好きなインテリアがつくれる、自由度の高いスタイル。

襖が張り替えられ、すこしモダンな雰囲気の押入れ。

奥行きもあり、工夫して使えばマズマズの容量が期待できます。布団派の人は、特に使いやすそうですね。

窓の外には、物干し竿が。

取り付け金具は年季が入っています。おそらく大丈夫かと思いますが、洗濯物が重くなり過ぎないよう、ちょっと注意しておくと良さそう。

文机に向かい、お茶をすすりながらの読書。

「伊豆の踊子」がまた渋いですね。


2階の他の部屋よりも少しだけ広い、角部屋の202号室。

窓向きは東と南で、日当たり抜群。朝の目覚めはとても良いはず。夏場は暑いくらいかもしれません。

他の部屋にはない板間のスペースの使い方も、気になるところです。


203号室は、フローリング張り。

これまでの和室とはずいぶん雰囲気が変わります。和室のニュアンスもあまり強くなく、比較的インテリアも作りやすいのではないでしょうか。

引き戸には、遊び心を感じさせるアクセントの模様が。

ドアと同じ高さの位置に、ぐるりと棚が設けられています。

飾り棚にするも良し、実用的に荷物を置くも良し。本棚にもピッタリのサイズ。


101号室は、すっきり爽やかな空間。

奥行きがあるので、すでに家具を持っている方やベッド派の方に良さそうです。

全8室のなかで唯一、そのまま庭に出られる部屋でもあります。

緑が見えて、とても気持ち良い窓際。

一人がけのソファを置いて、ゆっくり過ごしたくなります。


ふたつの部屋が合体したような102号室。

L字のような少し変わった間取りですが、家の中で一番広い部屋です。

寝室と作業場所といったように、ふたつのゾーンをうまく使い分けてみると良さそうです。


最寄り駅は、各線・中野駅

中央・総武線(各停)中央線快速東西線が乗り入れます。新宿まではわずか6分、高田馬場まで5分、飯田橋まで13分、大手町まで約20分とアクセス良好。

中野駅を挟んで南北に商店街が続いていて、日常の買い物にもとても便利なエリア。

中野ブロードウェイをはじめ、中央線沿線独特のサブカルチャー的雰囲気も味わえる街。民家にしか見えないギャラリーや穴場のカフェなど、住んでいるからこそわかるお店を探し歩くのも楽しそうです。


運営・管理を行うのは「株式会社オープン・エー」さん。

特にリノベーションの分野では、とても広く知られた設計事務所です。シェアハウスでも大小様々なリノベーションを手がけてきましたが、運営管理を行うのは、今回がはじめて。

新築やリノベーションといった手段にとらわれず、その建物や土地の持つ魅力を引き出して、長く大切に使われるように取り組むのがポリシーとのこと。よって今回、オーナーさんから「長く付きあってきた実家をなんとかしたい」という相談を受けたときには、改めて取り壊しも検討したのだそうです。

今回のシェアハウスでは、「もともとの建物のつくりや建具を活かして、全く新しい価値をかたちづくる」という近年のリノベーションの基本的な方向性(実はオープンエーさんも、そのトレンドを生み出した中心的な立役者の一角です)より、「もともとあったものを健康にする」という姿勢が強いように感じました。

使いやすく入れ替わった設備もあります。でも、基本的には元の状態を尊重して、建物が健康にいられる状態で使い続けられるようにする。もちろん、水回りをはじめ見えない部分に様々な工夫があるのでしょうが、それをあまり感じさせないくらい、自然な空気が流れる空間です。

事業者さん主催で、ゲストを招いたトークイベントや、気軽な料理教室などの開催も検討しているとか。イベントのアイデアも募集中とのことですから、相談してみれば実現するかもしれません。

設計事務所さんの影響のあり、今のところクリエイティブ方面のお仕事の入居者さんが多いそう。2015年7月現在は満室とのことですが、空室を見つけたときにはコチラからお問合せをどうぞ。


部屋にいながら四季の変化を実感し、縁側では外の空気に触れて深呼吸する。

もちろん古い家ですから、多少の不便には心構えを。

でも、「味わい」とはそもそも、そういうものだと思います。

(テルヤ)

戦後間もなく建てられた趣のある木造の家をリノベーションした、シェアハウスです。季節ごとに表情を変える庭、その庭を眺められる縁側、畳敷の広い和室など・・・。落ち着いた空間で、気の合う住人とゆったりした時間を過ごす。なんて生活はいかがでしょうか。新宿か...

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